2022年1月14日
光学設計から機械パッケージングまで - Zemax OpticStudioとOpticsBuilderを使用した フラッシュLiDAR光学系の開発

コンシューマーエレクトロニクスの分野では、顔認識や3Dマッピングなどの各種機能でLiDARが活用されています。さまざまな形態で実現したLiDAR光学系が存在していますが、固体光学エレメントを使用して、ターゲットシーン全体に検出可能なポイントのアレイを生成するうえで「フラッシュLiDAR」ソリューションが活躍しています。3次元空間データの取得を小型パッケージを使用することで得られるという利点によって、この固体小型LiDAR光学系は、スマートフォンやタブレットなどのコンシューマーエレクトロニクスで身近な機能になっています。
この記事では、OpticStudioを使って、フラッシュLiDAR光学系を構成するシーケンシャルモデルを評価する方法をご紹介します。またノンシーケンシャルモードへの変換のデモンストレーションを行い、現実の光源特性や散乱形状などの詳細情報の挿入の仕方を実演します。カスタム解析の作成も可能で、ここでは観測するシーンの奥行き情報を取得します。最後に、OpticsBuilderとネイティブのOpticStudio形状を使用して、フラッシュLiDAR光学系にハウジングを提供します。これにより、光学エンジニアとオプトメカエンジニアとの間で、モジュールのパッケージングに関し、さらに迅速な反復作業を可能にします。
フラッシュLiDAR光学系のシーケンシャル解析
フラッシュLiDAR光学系の全体構成は、2つのモジュールからなります。すなわち、シーンに衝突する検出可能点を生成する送信モジュールと、それらの点を捕捉する受光光学系です。送信モジュールは通常、光源を遠視野に投影するためのコリメータ光学系と、この投影を多くの次数で2次元的に生成するための回折光学エレメントによって構成されます。
その後、受信モジュールが、投影されたアレイの画像を取得します。一般に、後処理によって、回帰信号が受信された時間と信号が光源で生成された時間との差からタイムオブフライトデータが計算され、そこからシーンの奥行き情報が得られます。
光学エンジニアは、OpticStudioを使用すれば、フラッシュLiDAR光学系を構成する投影光学系と結像光学系を設計することができます。このモデルでは、10 mmの焦点距離を持つ光学系を設計しました。これにより、1.6 x 1.6 mmのアクティブ領域を持つLEDアレイの出力をコリメートします。多くの次数で投影光源を発生させる回折エレメントでは、互いに直交する回折グレーディング面を使用し、X軸とY軸の次数を取得します。回折グレーディングの1ミクロンあたりの線対のパラメータ値は0.2です。これにより、シーンの対角方向の半値視野は19.39°となります(コリメートレンズで使用する一対の回折グレーディングの1次および中心次数を考慮した場合)。

全投影が受信センサーに結像されるようにするため、結像光学系は、20°の半値視野を持つように設計されています。このモジュールの非球面レンズでは、各部分の全体にわたって十分な厚み(例えば、実装要件に対して十分な端部の厚み)を確保するなど、さまざまな最適化目標を活用しました。小型結像系には、このような光学系に用いられることが多い最終的なカバーウィンドウも含まれます。投影モジュールも結像モジュールも小型で大量生産できるように作られているため、エレメントには、射出成形の製造工程に対応したプラスチック材料が指定されています。

この段階での光学系が十分な性能を発揮できるようにするためには、このレンズの結像性能を、受信モジュールが検出しなければならないスポットの大きさと比較して評価することが重要です。送信系から1 m離れた中心視野点のRMSスポットサイズは、シーケンシャルモデルから取得したもので、2.089 mmと報告されています。したがって、この結像系では、結像スポットのサイズは焦点面上で6.9703e-3 mmとなります。このスポットは理論上、最小限のサイズであると考えられることから、空間周波数の要件が最も高くなり、およそ72 lp/mmで十分なコントラストを確保できるはずです。FFT MTF解析によると、結像レンズのコントラストは72.2%となり、このスポットを観測するために十分なコントラストを確保できたと考えられます。
エンドツーエンドのLiDARモデリングにおけるノンシーケンシャルモードの使用
これで満足できるレベルのシーケンシャル設計を実現できたので、OpticStudioで設計をノンシーケンシャルモードに変換し、光学系全体の観点から見ていきます。これにより、ノンシーケンシャルな光線追跡解析を実行できるようになります。「Convert to NSC Mode(NSCグループに変換)」ツールを使用すると、ノンシーケンシャル対応に自動的に移行し、モデルの結合と改良を迅速に行うことができます。
ノンシーケンシャルモデルでは、両方のモジュールを1つのファイルに結合した後に、投影光学系の光源特性、結像系のセンサー寸法と解像度、そして任意のシーン形状をモデルに追加して、現実の条件下での解析を実施することができます。ここでは、1.6 x 1.6 mmのアクティブ領域を持つ光源が、個別ダイオードの5x5のアレイで構成されているものとします。また各ダイオードのX/Y発散角は11.5°とします

とします。このデモンストレーションでは、投影モジュールの回折次数は、各軸の+/- 1および中心次数に対して理想的な透過率を有するものと仮定します。また、両モジュールの光学エレメントも理想的な透過率を有するものとします。
まずは簡単な形状から始めるため、1 m先に、投影モジュールからの光と相互作用するランバート散乱の反射性を持つ壁を置くことを定義します。このオブジェクトからの散乱は半球状に放射されることから、デフォルトでは、結像モジュールの検出面上で信号の深刻なアンダーサンプリングが発生します。しかしOpticStudioの重要度サンプリング機能により、この低信号の問題を緩和することができます。重要度サンプリングは、ノンシーケンシャルモデルで定義された任意のオブジェクトを中心として指定されたターゲット球の方向に放射される散乱線を選択的に生成します。散乱線に含まれるエネルギーは、使用する散乱プロファイルに基づき、実世界での性能を反映するように変更することができます。
このエネルギー減衰の結果に注意して、OpticStudioの関連するノンシーケンシャル設定が適切に定義されているか、また結像モジュールで何らかの信号を取得できているかを確認する必要があります。この場合、パラメータでは、開始光線のエネルギーに対して任意のインターフェイスで放出される光線エネルギーの最小許容閾値に基づいて、どの光線を追跡することができるかを定義します。時に、重要度サンプリングのエネルギー減衰の結果として、この閾値を子の散乱線が下回ってしまうことがあります。しかし、手動でこの値を下げれば、結像モジュールに投影されたドットパターンを検出することができます。
フラッシュLiDARモジュールの重要な解析機能として、結像光学系によって感知された各観測可能ドットの時間応答を取得する機能が挙げられます。この値を計算できるネイティブの解析機能はありませんが、ZOS-APIは、OpticStudioが生成するデータを抽出し、後処理をして表示するためのツールとして使われています。コンパイルされたユーザー解析では、光線データベース(.ZRD)ファイルを開き、結像光学系に到達するさまざまな光線の光路長を抽出することができます。机上または卓上の環境を模倣したシーンと関連形状を用いて、ユーザー解析のデモンストレーションを実施しました。ノンシーケンシャルな光線追跡の後、ユーザー解析が実行され、そこから投影された各ドットの移動距離が出力されるようになっています。

奥行きマップの出力から、シーン内の各オブジェクトの位置情報を確認することができます。卓上のカップ(~0.9 m)や反射壁(~1 m)などと比べ、浮遊球は移動距離が短い(~0.5 m)ことが分かります。
OpticsBuilderによるフラッシュLiDARのパッケージングの仕上げ
フラッシュLiDAR光学系の開発における光学設計の次の段階として、各モジュール内の光学系を保持するための機械ハウジングと、LiDARモデル全体のハウジングを作成します。これには、光学機械エンジニアが使用するCADソフトウェアへのOpticStudioからの正確な変換が必要です。OpticsBuilderは、互換性がある任意のCADソフトウェアでOpticStudioのネイティブ形状を再構築することにより、光学エンジニアと光学機械エンジニアの間のシームレスな移行を可能にします。
OpticStudioの「Prepare for OpticsBuilder」ツールを使用すれば、OpticsBuilderに直接インポートするためのファイルを生成することができます。OpticsBuilderへの読み込み後は、同じ光線追跡エンジンを使って光学性能を以下のようにシミュレートすることができます。

エンジニアが機械ハウジングを構築する際には、光線と相互作用するコーティングや散乱プロファイルなどの光学特性も定義することができます。これにより、新しい部品が全体的な光学性能に与える影響について、迅速なフィードバックを行うことが可能になります。さらに、光学エレメントそのものの設計に影響を与えずに、光学部品の形状を拡張し、取り付け部材を追加することもできます。

性能検証の準備ができたら、エンジニアは、新しい追跡をシミュレートし、ハウジングを追加する前と後のさまざまな指標を比較することができます。ビームクリッピングなどの性能上の問題は、OpticsBuilder内で以下のような特定の光線セットを見ることで可視化できます。

最後に、この設計を繰り返し光学エンジニアに送る必要がある場合は、OpticStudioでネイティブに読み込めるファイルをOpticsBuilderからエクスポートすることができます。これにより、OpticsBuilderで定義された形状や光学特性をそのまま保持し、ソフトウェアパッケージ間でさらなる評価、フィードバック、再設計を行うことが可能になります。

まとめ
このホワイトペーパーでは、Zemax OpticsStudioとOpticsBuilderを使ってフラッシュLiDARモジュールの特性を評価し、光学部品のハウジングを作成する方法を見てきました。シーケンシャルおよびノンシーケンシャルな光線追跡モードを活用することで、観測するシーンからの反射および散乱形状を考慮しながら、受信モジュールの画質や、光学系のエンドツーエンド性能などの指標を評価してきました。ZOS-APIでは、OpticStudioのノンシーケンシャルな光線追跡のデータを使用して、ソフトウェア内で奥行き情報を生成するカスタム解析を作成できます。最後に、光学系の機械ハウジングの構築にOpticsBuilderを使用し、OpticStudioとハウジングの作成に使用するCADソフトウェアとの間でスムーズにファイルを転送するワークフローについて解説しました。
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著者:
Angel Morales
光学エンジニア
Zemax An Ansys Company
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