2022年6月15日
OpticStudioの回折光学素子

回折光学素子(DOE)は、成形光学部品、とりわけ射出成形光学部品や、赤外線イメージング用のカルコゲン化物 精密ガラス成形レンズで幅広く使用されています。
OpticStudioで回折素子を使用する場合は、光線追跡における回折をOpticStudioがどのように処理するのかを理解することが重要です。このブログでは、回折面のモデル化方法に加え、キノフォームとバイナリオプティクスの違いについて説明します。
OpticStudioは、基板の屈折率と面のサグを適用するわけではなく、回折力をモデル化します。回折力は、光線に位相変化をもたらします。OpticStudioのすべての回折面では、次の式に従って光線が曲がります。

ここで、
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Mは回折次数
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λは波長
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Tはグレーティングの周期(線の間隔dの逆数)を表します。
上記の式は、屈折に関するスネルの法則に、回折を表す、光線が曲がる条件を加えたものです。下図は、屈折力のない回折面に対して、光線を垂直に入射(sin(θ1) = 0)させた場合の回折の様子を示しています。

回折グレーティングのような面は、1つの軸に沿って一定周期のグレーティング線を備えており、分光計によく使われます。コンピュータで生成された回折面のメリットは、グレーティングの周期を面全体で空間的に変化させることができるため、必要な場所に回折力を正確に付加できるという点です。
たとえば、
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不等間隔溝グレーティング面では、グレーティングの周期を変化させ、チャープグレーティングをモデル化できます。
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バイナリ1面では、グレーティングの周期をx-y多項式の展開として変化させることができます。
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バイナリ2面では、グレーティングの周期を回転対称の多項式として変化させることができます(これは収差補正に非常によく使われます)。
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いくつかの多項式面では、ほぼあらゆる多項式展開を使用し、グレーティング間隔の変化を表現できます。
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グリッド位相面では、任意の一組の点{x,y}を使用して、任意の点で追加される位相を定義できます。
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ユーザー定義面では、適切な面タイプがまだOpticStudioで利用できない場合に、必要なプロファイルを記述して定義できます。
これらすべてのケースで、OpticStudioは、面上の位相プロファイルとして回折力をモデル化します。光線は、回折素子によって導入された位相プロファイルの分布によって曲げられます。
ラジアン単位で表される位相φは、光線の光路長に加算されます。

位相プロファイルの分布(位相の傾斜)により、光線の方向が変化します。

ここで、lは光線のx方向余弦、mは光線のy方向余弦を表します。
したがって、設計プロセスでは、必要な位相プロファイルを計算した後に、位相プロファイルを生成するために必要なグレーティングの構造を計算します。
レンズデータエディタで、各回折面に対して回折次数を指定する必要があります。下図に示すように、複数の回折次数をマルチコンフィグレーションで同時にモデル化できます。

上記の式によると、回折角は、入射光が当たる繰り返し構造の周期(T)にのみ依存します。特定の周期内における構造の形状には依存しません。ただし、面構造は回折効率に影響を与えます。OpticStudioでは、指定した回折次数での効率が100%であるという前提に基づいて、理想的なグレーティング構造をモデル化できます。あるいは、より高度なソルバを使用して、面構造から各次数の効率を正確に計算することもできます。後者のアプローチについては、「表面レリーフ型グレーティングの回折効率をRCWA法でシミュレーションする—ナレッジベース(zemax.com)」および「体積ホログラフィックグレーティングの回折効率をKogelnik法でシミュレーションする—ナレッジベース(zemax.com)」で説明されています。
回折次数の符号は、光軸に対する回折角の符号を決定します。回折次数の符号規則は、完全に任意です。OpticStudioの規則では、正の回折次数には正の回折角(光軸に対して)が使用されています。
OpticStudioの回折面は、屈折力および回折力を持つことができます。この回折力は、マニュアルに記載されている式に従い、面全体に連続した位相を導入します。位相が連続的であるため、これは理想的な回折光学素子(DOE)となります。回折構造の周期は、波長に比して無限小であるか、少なくとも非常に小さくなります。
キノフォームおよびバイナリ回折面
DOEの回折効率を最大化するためには、回折ゾーン内で面のサグを作り、波面の位相が(望ましい回折次数の)回折波に対してどこでも平行になるようにすることが考えられます。図13.3(b)に、特定の次数に対してブレーズ角が最大効率を得られるように最適化された透過型「ブレーズド」グレーティングを示します[1]。

上図(b)のような連続的な面形状を持つDOEは、しばしばキノフォームとも呼ばれます。フォトリソグラフィを使用するケースと同様、サグが離散的な階段構造で近似されている場合は、一般にバイナリオプティクスと呼ばれます(下図参照)[1]。OpticStudioでの理想的な回折面は、位相がどこでも連続であることから、バイナリオプティクスよりもキノフォームに近い近似となります。回折面によってモデル化された位相を近似表現するために、どのような面構造を使用するかは、ユーザーが決定します。

以下の図は、バイナリ面の理論効率をステップ数の関数で表しています[1]。

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著者:
Nam-Hyong Kim
参考文献