2021年6月23日
OpticStudioでの高次レーザー ビームのモデリング

一般に、レーザーの出力は、近軸波動方程式の解から得ることができます。この方程式の最も広く知られている解は、理想的なシングルモードガウスビームの解です。直交解には、特定の光学系の対称性に依存する、他の一連の解も存在します1。このような解は、高次ビームモードのモデリングに使用できます。
このブログでは、高次レーザービームを特徴づけるためにOpticStudioで利用可能なモデルについて説明します。このようなビームは、定義されると、OpticStudioで物理光学伝搬(POP:Physical Optics Propagation)を使用して設計されたあらゆる光学系で伝搬されます。矩形、円形、楕円形のゲインアパチャーを用いたレーザー共振器から生成されるビームは、エルミートガウスビーム用、ラゲールガウスビーム用、インスガウスビーム用の利用可能なモデルを使用して特徴を持たせることができます。
エルミートガウスモード
矩形対称、つまり矩形ゲインアパチャーを用いたレーザー共振器を設計する場合、近軸波動方程式に対する適切な解はエルミートガウスモードで求められます。このモードの電界分布は、エルミート多項式を用いて表すことができます。OpticStudioでは、[POP 設定] ダイアログボックスに組み込まれた [ガウス ウェスト] ビーム定義を使用して、このモードをモデリングできます:

このモードの主要な入力項目は、X方向およびY方向のビームのウェストと、X方向およびY方向のビームの次数です。上記の設定は、シングルモードのガウスビームに対応する、XとYが同じウェストサイズで(0,0)モードのモデリング方法を示しています。ただし、入力のビームは、XとYが非対称の高次エルミートガウスビ
ムの場合もあります。以下に例を示します:

エルミートガウスモードは、通常、TEMm,nモードと呼ばれ、mはX方向のビームの次数、nはY方向のビームの次数です。確認になりますが、ガウスビームは、TEM00モードのビームです。
「ガウスウェスト」 ビームに対する入力パラメータの詳細は、「物理光学伝搬について」 の [ヘルプシステム] セクションを参照してください。
ラゲールガウスモード
円筒対称、つまり円形ゲインアパチャーを用いたレーザー共振器を設計する場合、近軸波動方程式に対する適切な解はラゲールガウスモードで求められます。このモードの電界分布は、ラゲール多項式を用いて表すことができます。OpticStudioでは、OpticStudioのインストール時に提供されるLaguerre beam DLLを使用して、このモードをモデリングできます:

このモデルの入力項目は、半径方向 [n] と方位方向 [I] のビームの次数、ビームウェスト[wo]、モード回転角度[phi0]です。phi0 = 0を指定すると奇数ラゲールガウスモード(LGM)のモデリングになり、phi0 = 90を指定すると、偶数LGMのモデリングになります2。
Laguerre beam DLLのソースコードは、OpticStudioインストールフォルダにあり、このフォルダはデフォルトではDocuments\Zemax\DLL\PhysicalOpticsです。このフォルダーの場所は、[ファイル] タブ → [プロジェクト環境設定] → [フォルダー] の画面で確認できます。

インスガウスモード
楕円対称ゲインアパチャーを用いたレーザー共振器を設計する場合、近軸波動方程式に対する適切な解は、インスガウスモードで求められます。このモードの電界分布は、インス多項式を用いて表すことができます。この多項式については、Miguel A. BandresおよびJulio C. Gutiérrez-Vega著『Ince-Gaussian modes of the paraxial wave equation and stable resonators』(JOSA、Vol. 21、No. 5、2004年5月、p. 873)2で簡潔に説明されています。詳細な説明については、F.M. Arscott著『Periodic Differential Equations』(Pergamon Publishing、Oxford、英国、1964年)3を参照してください。
OpticStudioでは、Ince-Gaussian DLLを使用してインスガウスモードをモデリングできます:

このDLLは、OpticStudioインストールファイルに含まれており、上記セクションで説明したように、{Zemax}\DLL\PhysicalOpticsフォルダーに保存されています。このDLLのソースコードは提供されません。
このモデルの入力項目は、次数[p]と度数[m]、ビームウェスト[w0]、ビームの半焦点分離 [f0]、ビーム極性(0 = 偶数、1 = 奇数)です。最後の入力項目は、ビームが偶数インス多項式または奇数インス多項式のどちらで表されるかによって決定します。これらの入力項目すべての詳細については、BandresおよびGutiérrez-Vegaの論文2を参照してください。使用しない入力項目がいくつかリストされているのは、このモデルの入力テーブルの構造をOpticStudioに組み込まれたガウスウェストモデルに合わせているためです。
BandresおよびGutiérrez-Vegaの論文で説明されているように、インスガウスモードのビームのプロファイルを設計するために重要なのは、特定の入力項目のセットに対する固有値の問題を解決することです。この固有値の問題は、CLAPACKライブラリーで提供されるサブルーチンを使用して、Ince-Gaussian DLL内で解決できます。このライブラリーは、無償で提供されており、http://www.netlib.org/clapack/ 4からダウンロードできます。
ビームウェストと半焦点分離から、無次元の楕円度パラメータが計算できます:

BandresおよびGutiérrez-Vegaの論文で説明されているように、w0とf0によってビームモードの物理サイズが調整され、eによって2次元的なビーム構造の楕円度が調整されます。2
エルミートガウスモードとラゲールガウスモードがそれぞれ限られたケースに対応するのに対し、インスガウスモードは、より一般的な近軸波動方程式の解を表しています。特に、エルミートガウスモードはe = ∞に設定したインスガウスモードの解から導くことができ、ラゲールガウスモードはe = 0に設定したインスガウスモードの解から導くことができます。この遷移は、BandresおよびGutiérrez-Vegaの論文の図32でうまく示されています。

この著者から直接提供を受けた別の図でも、この遷移が示されています(p = 4の場合)2

Ince-Gaussian DLLは、eが0に近づくと、ラゲールガウスモードの結果を正確に再現します。ただし、次のような制限の中では、OpticStudioでこれらのモードをモデリングする場合、Laguerre-Gaussian DLLを使用して計算を効率化できます。
eが∞に近づくと、Ince-Gaussian DLLによって計算される固有値の解が発散するポイントに到達します。この発散の振る舞いは、計算アルゴリズムの制限によるものです。発散ポイントに到達すると、Ince-Gaussian DLLによって生成される結果が不正確になります。残念ながら、このポイントが生じるのは、eの値のみが原因ではありません(p、m、ビーム極性にも依存しています)。ただし、発散解が生成されていればすぐに判断できます。この解は、対応するエルミートガウスモードの結果とは一致しません(大きい値のeに対して計算する必要があるため)。このような場合に、[ガウス ウェスト]ビームオプションをビームモードのモデリングに使用する必要があります。
レーザービームの一般的な出力は、近軸波動方程式から求められます。この方程式に対する3組の直交解は、レーザーゲインアパチャーの矩形対称、円対称、楕円対称に対応しています。これらの3つの解はすべて、OpticStudioの物理光学伝搬(POP)でモデリングできます。これらの解によって定義されるビームの入力分布を決定したら、POPを使用して、対象の光学系によるビームの伝搬を実現できます。
ブログ著者:
Kerry Herbert
Field Marketing Manager
Zemax
ナレッジベース記事著者:
Sanjay Gangadhara
Chief Technology Officer
Zemax
- Siegman, A. E. 1986. Lasers. Mill Valley, CA: University Science.
- Bandres, Miguel A., and Julio C. Gutiérrez-Vega. 2004. "Ince-Gaussian modes of the paraxial wave equation and stable resonators." JOSA 21 (5): 873. doi:https://doi.org/10.1364/JOSAA.21.000873.
- Arscott, F.M. 1964. Periodic Differential Equations. Oxford, UK: Pergamon Publishing.
- Anderson, E., Z. Bai, C. Bischof, S. Blackford, J. Demmel, J. Dongarra, J Du Croz, et al. 1999. LAPACK User's Guide. Third Edition. Philadelphia, PA: Society for Industrial and Applied Mathematics.