2021年10月28日
体積ホログラフィックグレーティングの回折効率を Kogelnik 法でシミュレーションする
この記事では、OpticStudioにネイティブ機能として搭載されている体積ホログラム機能を紹介します。この機能を使うと、物理的特性を考慮して、シーケンシャルモードでホログラフィックグレーティングを完全にシミュレート、解析することができます。既存のDLLを使用することで、ノンシーケンシャルモードでも同等の機能を実行することができます。これらの解析は、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)で使用するヘッドアップディスプレイ(HUD)やヘッドマウントディスプレイ(HMD)などの光学系を設計する場合に重要になります。ここでは、このモデルで用いられる理論とパラメータを紹介します。
シーケンシャルモードの体積ホログラムはOpticStudioの全バージョンで利用できますが、回折効率解析はサブスクリプション専用の機能です。ノンシーケンシャルDLLはPremiumサブスクリプションの機能です。
体積ホログラムはさまざまな種類の光学系でよく使われます。光線を任意の角度に回折するホログラムの機能、および波長選択性と角度選択性によって、より軽くコンパクトな光学系を作成できます。
OpticStudioでは長い間、理想的なホログラムのシミュレーションがサポートされてきました。しかし、体積ホログラムの特性を正確に考慮するには、回折光線の伝搬方向に加え、回折効率、材料の収縮、屈折率シフトなどの要因も考慮に入れる必要があります。回折効率を考慮することで、画像シミュレーションや包括的な最適化といった高度な解析が可能になります。
表面レリーフ型グレーティングと体積ホログラフィックグレーティング
このモデルを紹介する前に、表面レリーフ型グレーティング(SRG)と体積ホログラフィックグレーティング(VHG)の違いを簡単に説明しましょう。この2つのグレーティングは光学系における役割という点ではほぼ同じですが、合成とシミュレーションという点ではまったく異なります。
図1.(a)表面レリーフ型グレーティング(b)体積ホログラフィックグレーティング
-
図1(b)に示すように、VHGは2つ以上のビームを感光性エマルジョン膜に露光することによって合成します。その後、この膜を化学的または熱的に現像します。これがグレーティングです。グレーティングの表面は滑らかですが、グレーティング内部の屈折率は正弦波関数状に変化します。VHGをモデル化するには、効率的なKogelnik理論や信頼性に優れた厳密結合波解析(RCWA)などのアルゴリズムが必要です。
-
SRGは、図1(a)に示すように、電子ビーム描画、リソグラフィ、ナノインプリンティング、ダイヤモンドターニングなど、いくつかの方法で合成することができます。VHGと異なり、SRGには空間的に変化する屈折率はありません。その代わりに、グレーティングの表面は周期的な微細構造で構成されます。SRGをモデル化するには、フーリエモーダル法(別名RCWA)のようなアルゴリズムが必要です。
この記事では、VHG用のツールについて説明します。
SRG 向けのツールについては、ナレッジベース記事『表面レリーフ型グレーティングの回折効率を RCWA 法でシミュレーションする』を参照してください。
2つの結合波解析
2つの結合波理論を確認していきましょう。これらは主に体積ホログラフィックグレーティングモデルで使用されます。
簡単な事例について考えてみます。この事例では、法線ベクトルnを持つホログラム面は同じ波長の2つの平面波によって照射され、波数ベクトル1およびk2の方向に沿って伝搬されます。平面波はまずホログラムを横断する際にスネルの法則によって屈折し、ホログラム内部で新しい波数ベクトルk1およびk2を持ちます(図2(a))。その後、次の式でグレーティングベクトルを定義できます

現像後、ホログラムが再生面kpによって照射されたら、次の式を解くことによって回折波kdを判断できます。

ここで、kpとkdは、ホログラムエマルジョン内部の再生波と回折波の波数ベクトルです(図2(b))。グレーティングベクトルKは2つの反転方向から選択できることに注意してください。式(2)の符号規約は、Kの方向がK.kp >0を満足するように選択されることを想定しています。

図2.(a)2つの構成ビームが屈折してホログラム材料に入る(b)再生光線が屈折して体積ホログラムに入る
ここで、式 (3) に示すように、正弦波関数状に変化する屈折率 n と α によってホログラム内部の干渉縞を表現できると考えられます。

ここで、n0は平均屈折率、n1は屈折率の振幅変調、Kはグレーティングベクトルです。
透過ホログラムと反射ホログラムの回折波と直接波のTE(横電界)方向に偏向した電界は、次の4つの式で計算することができます。なお、この理論では、エネルギーは入射0次(直接波)と1次回折波との間でのみ交換されることを想定しています。この制限を取り除くには、厳密結合波解析の理論が必要になります。

各値の定義は次のとおりです。

TM(横磁界)偏光の場合は、次のように単にκをκTMに置き換えれば、そのまま前述の式を使うことができます。

円錐回折の場合は、入射光線がグレーティングに対して垂直ではないため、固有偏光は次のように定義されます。


図 3. Kogelnik の結合波理論では、反射と透過のどちらのホログラムでも、入射光線が 0 次で直接透過するか 1 次の回折が発生するうえで十分な厚みがホログラムにあることを前提としています。
前提と制約
Kogelnikの結合波理論には、体積位相グレーティングの0次および1次の効率の応答を他の理論よりも正確に予測できるという利点があります。ただし、ホログラムの厚みが十分ではない場合、または過変調パターン(大幅な屈折率変調)が記録されている場合、この精度は低下する場合があります。このため、参考として、Kogelnikの適用限界を検討しておく必要があります。
-
屈折率変調 : 平均屈折率に比べて過剰な屈折率変調は使用できません。言い換えれば、n1/n << 1 が成立している必要があります。この条件は、現実の状況のほとんどで成立します。経験則によれば、n1/n の比率を反射ホログラムの場合は 0.16 以下、透過ホログラムの場合は 0.06 以下にする必要があります [2]。
-
厚み:ホログラムには、十分な厚みがあるものと仮定しています。経験則みよれば、以下の式が成立している必要があります。

-
複数次数の回折 : これは、厚みと同様の制約です。厚いホログラムであれば、入射光線のエネルギーは、0 次の直接波または 1 次の回折波にのみ伝達されます。薄いホログラムの場合、-1、-2、+2、+3... など他の回折次数の効率がゼロではなくなることが考えられます。
-
記録の多重化 : ホログラム内部に同時に存在できる干渉縞は 1 組に限られます。Kogelnik 法では、複数の干渉縞を扱うことができません。
-
複屈折材料:ホログラムには、等方性材料を使用することが前提となります。したがって、複屈折材料は使用できません。
膨張/収縮
このセクションでは、ホログラムの膨張と収縮がどのように考慮されるかについて説明します。
加工を経たホログラムのエマルジョンは、厚みが変化する可能性があります。厚みの変化を考慮するために、まずグレーティングベクトルを2つの成分K∥とK⊥に分割します。ここで、K⊥は面法線と直交するベクトル、K∥は面法線に平行なベクトルです。厚みがtからt'に変化した場合、式 (4) に示すとおり、K∥ を変更することで新しいグレーティング ベクトルを計算できます。


図4.ホログラムエマルジョンが収縮する場合、その厚みはtからt'に減少します。
体積ホログラムモデルの基本について説明しました。OpticStudioでこの理論がどのように適用されるか、シーケンシャル光学系とノンシーケンシャル光学系の設定方法、およびサンプル光学系のダウンロード方法の詳細については、こちらからこのナレッジベースの記事全体にアクセスできます。Zemaxの諸機能を試してみたい場合は、こちらから無料体験版をダウンロードしてください。
著者:
Michael Cheng
Principal Optical Engineer
Zemax, LLC